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『ANATOMY SCULPTING』

帯には「造形解剖学入門」とある。そのとおりの素晴らしい技法書。人体造形には解剖学が必要だ……と誰でも言うが,それはこういうことだったのだ。

前半は、片桐の作品集。リアリティのある奇形。

表情が変化する一瞬前の瞬間を捉えたような、つまり、表情をつくる筋肉がこれから動き始める瞬間をとらえたように見える。

パシフィックリムの巨大ロボット、ジプシーデンジャーの造形も片桐が関わっているとは知らなかった。あの立ち姿と動きがいかにも様になっているのは、造形の背後に脊椎動物の構造への深い理解があることを知る。

後半は、頭部、男性全身、女性全身、老人胸像、子供を作例とした技法の解説。

いきなり、モンゴロイドとコーカソイドの頭蓋骨の違いの解説からはじまるのだが、解剖学の知見と粘土細工のテクニックとが、実にいい感じで渾然となりながら制作が進む。

目標作業時間が示されているのもプロっぽい。ここまで50時間とか、さらっと書かれている。

背中は丸い肋骨の上に肩甲骨がのっていて筋肉の動きが凄まじいとか,シワは線じゃなくて上から皮膚が垂れて下の皮膚にのっている断面を意識すべきで、大人と子供はこの垂れ具合が違うとか,指先は平たくするとほっそり見えるとか,耳の一番高い部分と一番奥の部分が割と後ろの方にある形が個人的にはかっこよくて好きだとか,身体の形への視線の向けられ方、その解像度の高さがそもそも違うというのがよくわかる。

構造を理解することと細部を理解することは表裏一体なのだ。

p.133の瞳の造形についての説明も素敵だ。これらはすべて、エンターテイメントにむけられた造形なのだ。

骨格 筋肉 血管 皮 肌と階層構造が重層していく構成が強調される。下部構造の混乱を上部で挽回することはできないことが繰り返し強調される。このあたり、いかにもテクトニックで、西欧的な造形だと感じる。

たとえば能面のような、張り詰めた表面の背後に形の無い闇を抱え込むような造形原理とは、まったく違っている。バレエと舞踏、頭像と能面……クリシェだが、やはり違う。

今度の休み、粘土を買いにいこう。

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2014年10月29日 20:52に投稿されたエントリーのページです。

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