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『落語と私』

を読む。
桂 米朝,『落語と私』ポプラ社,2005年新装改訂版(1975年刊行)

上方落語の桂米朝が,中学生以上の少年向けのシリーズの一冊として昭和50年に書いた落語の入門書。あとがきに小沢昭一が「この本は,数多(あまた)落語論のある中で,もうこれ一冊で十分と言いたいほどの決定版」と書いているけれども,これにはまったく同感だ。平易で流暢な語り口ながら,落語の形式,内容,構造,歴史,環境,状況,展望が,ぴっちりと描ききられている。落語っておもしろいなあと思ったら最初に読むべき入門書としてはパーフェクト。

建築系読者には,寄席の成立以前にさかのぼるその上演環境と,落語の形式がどのような関係にあったのかなどが興味深く読めるだろう。

たとえば,上方落語で見台を構え,張扇や拍子木で調子を取ることが多いのは,騒がしい野天で行われることが多かったからで,文人の趣味と結びついて最初から座敷で行われることが多かった江戸落語とは,育った環境が違うのだ,というような歴史。

あるいは,マイクロホンの音量はなるべく小さく絞り込むべきだとか,高座は後方の席の人からも演者の膝が見えるよう十分に高くなくてはならない,というような極めて具体的実践的な指摘がなされ,その指摘が落語という形式の本質と分ちがたく結びついていることが述べられるくだり。

私の関心に引きつけた言い方をすれば,本書は,行為と環境の関係性のデザインに関する極めてすぐれた考察に富んでいる。

クリアな構造,涼しい蘊蓄,深い洞察。
ことは落語に限らず,テーマがなんであれ,およそ入門書あるいは教科書は,この本のように書くのがよいのではないかと思われた。すぐれた本を読むといつも,いつかこういう本を私も書きたいと思うのだけれど,本書はまさにそう思わされるものだった。

コメント (2)

Kohei KASHIMOTO:

そんなにすごい本だとは知らなかった。早速読んでみます。ちなみに米朝邸は我が家の近所、徒歩20分くらい。。
あ、質問なんですが、Google Mapsが僕のMobile PCでは表示できないのですが、なぜなのでしょうか? うちの事務所の他のPCでは表示できるのですが、相違点が見えてこなくて。。
ではでは。RSS登録させて頂いたので、またコメントします。KK

もとえ:

おお,米朝師匠のご近所とはうらやましい。

いや,ほんとに凄くよく書けているなあと思いました。
普通じゃん,と思うかもしれないけど,そこがすごいという(笑)

GMapsが見えない理由はよくわからんなあ。オンラインでないとか実はMacだとか,そういうサゲではないよね。

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2005年11月27日 01:04に投稿されたエントリーのページです。

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