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『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?』

を読む。
森 健,『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?―情報化がもたらした「リスクヘッジ社会」の行方』アスペクト,2005

「利便性と引き換えに失ったものは何か?」と帯にあるように,インターネットのネガティブな側面を日本国内の事例に即して整理している。結論からいうと,「失ったもの」は「プライバシー」「自由」「民主主義」「多様性」「主体性」等々なのだが,類書にありがちな徒に扇動的な調子はないので,落ち着いて,でもすらすらと読める。

スパムに破綻寸前の電子メール,即レスしなきゃならない携帯メール,グーグルにヒットしないものは存在しないのと同じ,ブログとジャーナリズム,EPIC2014が示すようなパーソナリゼーションと集団分極化やサイバーカスケード,ICタグとICカードがリンクして個人情報が大規模かつ徹底的に収奪される超管理社会——そこでは,政治と商業が手を携えており,消費者も自ら管理を望む——,リスクヘッジのつもりがかえって不信の連鎖による悪循環を生み出してしまう監視社会,などなど。

徒に扇動的になっていないのは,著者自身がITの恩恵をたっぷり享受しており,しかも,そうした新しい技術に強いシンパシーをもっているからこそ感じてしまう「居心地の悪さ」という矛盾に自覚的だからだ。

必ずしも斬新な視点や画期的な理路が提示されるわけではないけれども,情報社会のビジョンを議論するならば,たとえば卒業論文で「情報化社会が……」などと口にするつもりならば,本書の議論くらいは常識的な共通認識としておさえたうえでなければならないだろう。

インターネットの社会的ダークサイドを一覧する入門書として本書は好適。もちろんダークサイドであるからして,さらに掘り下げようとすれば底なしではあろうが。

あと,松江泰治の写真を使った装丁がすごく良い。

もとになったオンラインの記事:デジタル特捜隊:ITは人を幸せにするか

著者のウェブサイト www.moriken.org

コメント (1)

なにか読んでてとても興味をもってしましました。情報とは何という一面を考えさせる本ですよね?情報というのは信じられない部分が多くあり、何かを犠牲にしてしまいがちですが、本気で書いているということで同感してしまいました。

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2005年09月07日 03:38に投稿されたエントリーのページです。

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