« 深夜、テレビ画面に舞い降りた神の話 | メイン | まただよ »

『満月をまって』

を読む。絵本。こどもにせがまれて読みきかせる。
声に出して読むとよくわかるが,訳がほんとうにすばらしい。

文 メアリー・リン レイ,絵 バーバラ クーニー『満月をまって』掛川恭子訳,あすなろ書房,2000

山奥でかごをつくって暮らす人たちがいた。満月の日ごとに,父はかごを町へ売りにいく。満月の日なら帰りの夜道も明るいからだ。少年はいつもかごづくりを見ている。よいトネリコの木を選び,削いでリボンにし,丁寧にかごを編む様子を見ている。少しは手伝いもする。父と一緒に町へ行きたいが,なかなか連れていってもらえぬまま,満月をまつ日がつづく。

9歳になった少年は,はじめて町へ連れていってもらう。はじめての町は色彩に満ちており,心が躍る。しかし,町は少し腐った匂いもしていた。かごを売り,母から頼まれた買い物を終えて帰ろうとするふたりに,町の男が罵声を浴びせる。山奥での生活をあざけり,かごを侮辱する。まわりの男たちもわらっている。父はしらんぷりしろという。なかなか連れてきてくれなかったのはこのためだった。

少年は傷つき,かごづくりへのプライドを失う。母は気にするなというが,そうはいかない。いらだちが募り,少年は納屋に積み上げられていたかごを蹴り倒して崩してしまう。だが,かごは壊れなかった。そこへかごづくりの仲間が入ってきて言う。

「風からまなんだことばを、音にしてうたいあげる人がいる。詩をつくる人もいる。風はおれたちには、かごをつくることをおしえてくれたんだ」

オークの葉が1まい,風にのって,納屋にとびこんできた。

「風はみている」ビッグ・ジョーはいった。「だれを信用できるか、ちゃんとしっているんだ」

それを聞いて,少年は,自分も「風がえらんでくれた人になりたい」と思う。
月の下,かごを編みながら,少年はついに風の声を聞く。

ぼくにはもうわかっていた。

いつまでたってもつかえるかご。ぼくのつくるかごは、そういうかごだ。

風が、ぼくのなまえをよんでくれたんだ。

About

2005年01月20日 23:47に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「深夜、テレビ画面に舞い降りた神の話」です。

次の投稿は「まただよ」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。