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『「人口減少経済」の新しい公式』

を読む。

松谷明彦『「人口減少経済」の新しい公式—「縮む世界」の発想とシステム 』日本経済新聞社,2004

著者は元大蔵官僚で,現在は政策研究大学院大学教授。

この30年ほどの間に,団塊の世代がどっといなくなることで,日本の人口が急激に減少することは受け入れざるをえない事実である。超長期的には少子化のほうが深刻かもしれないが,30年から50年のレベルでは,急激な高齢化とその直後におきる人口急減が問題である。

これを悲観するばかりでなく,経済規模の割には貧しい国民生活という問題を解消する好機と,ポジティブに,かなり楽観的に,考えるのが本書の立場だ。

「日本は「極大値」に達したのである。極大値後の世界においては,経済も社会も巨大な構造変化を強いられる(p.23)」と松谷はいう。そりゃそうだろうと思うが,改めて見せつけられると,かなり厳しい変化である。俺たちは本当にこの転換を受け入れて違う国になれるのだろうか,と心配になってしまった。私は今38歳なのだが,まさにちょうど,この大波を乗り切らねばならない世代にあたる。「第2図 主要先進国の年齢階級別人口構造(p.5)」の日本を見ると,フタコブラクダの人口のまさに谷間じゃん。荷が重いよママン。

熱狂的な省力化への投資,が日本の経済の特徴だという。だが,過剰な省力化投資はかえって資本の限界生産力低下をもたらし,成長率を低下させる。資本装備率の上昇につれて生産コストは直線的に上昇するが,生産量は徐々にその拡大幅が減少し頭打ちになっていく。資本装備率を二倍にしても生産量は二倍にならないのだ。だから,本当は,付加価値が最大化される時点で,省力化投資を打ち切り,そして生産を打ち切らねばならない。(p.69)

「鉄鋼,窯業,化学,重電・重機械産業,建設業など,日本の名だたる大企業は,その大部分が投資財産業である(p.76)」ことが,「投資主導の経済」という性格を強めることになっている。マッチポンプだってことだ。今日より明日のために投資して,さらに投資する。わかってないのかもしれないし,わかったとしてもやめられない。

ひたすら売り上げの拡大だけを経営目標としてきた俺たちに,効率が一番いいところであとは止めて,そこそこで生産を打ち切り,適切な賃金水準を維持する,なんてことができるんだろうか(p.73)。そんな投資主導の経済から,消費主導の経済へ変わるなんてことがおこりうるのか?

松谷は,そうなるしかないという。なぜなら,「人口の高齢化による国民貯蓄率の低下によって,必然的に投資に上限が画されるからである。それ以上の投資をしようにも,そのための資源が国内にはない(p.80)」からだ。

この,貯蓄余力の低下が,われわれ投資財産業たる建設業界にディープなインパクトをもたらす。結論を先にいえば,公共投資は半減される。

設備投資,公共投資,住宅投資および純輸出の合計である「総投資」が急速に減少する(p.142)。これまでは貯蓄余力の面から投資が制限されることはなかったのだが,もうそうはいかない。投資できる資源には上限が画されるのである。公共投資と設備投資はパイを奪い合う。これを「クラウディング・アウト」というのだそうだが,公共投資が増加すると,その分,設備投資が減る。設備投資は生産力を向上させるが,公共投資は基本的には生産力とは無関係だから,公共投資を増やしすぎて,設備投資が十分になされないことになれば,日本経済全体が縮小することになる。社会資本にだって生産力効果もないことはないけれども,現在の日本ほどのレベルであればそれもさほどではない。

そこで,公共事業の規模限度はいかほどか,という話になる。松谷は「公共事業許容量」を推定する。結論は「今後の30年間で公共事業を現在の約半分の水準にまで縮小しなければ」実質国民所得を維持できない,である。

さらに,既存の社会資本の維持・更新の費用がふくらんでくる。90年代では,全公共事業費の35%が更新・維持費である。これが,2010年には公共事業許容量の57.2%,2020年には90.7%になり,2023年には更新・維持費が公共事業許容量を上回るという。つまり,新規投資はできなくなり,既存の社会資本も維持できなくなるのである。(p.148)

公共事業にあたっては「既存社会資本への厳格な再点検(p.150)」と「人口の減少と高齢化を見据えた長期計画(p.152)」が必要である。それは国にはできない。地方自治体にファシリティマネジメントの思想がどうしても必要な理由がここにある。

公共投資の話のほかにも,低賃金単純労働力として外国人労働者に頼るのは,国債と同じで後世代に負担を強いることになること,人口減少と高齢化のインパクトは大都市圏にこそ激烈に作用すること,都市部と地方との格差はむしろ縮小すること,現金を支給する年金制度にはどうしたって無理があるので公共賃貸住宅やリバースモーゲージなど社会的ストックを供給することで高齢者の生活を支えるべきであること,どうせ返せないんだから国債は永久公債にすりゃいいんだってこと,スペシャリティ別の雇用体系下では上昇志向の人々と「働かない自由」を謳歌する人々が分かれていくであろうこと,などなど,へえーと思う話がいっぱい出てくる。

これはマクロ経済の話だから,具体的にどう行動すればいいかは各々考えよ,ってことになるわけだが,精度はともかくとして,なにするにしてもこのくらいのことは念頭においておかないといかんだろうなぁと思った。1900円だし,読むべし。

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2004年10月09日 02:29に投稿されたエントリーのページです。

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