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『インターネットの心理学』

を読む。
パトリシア・ウォレス『インターネットの心理学 』川浦康至訳,NTT出版,2001
Patricia Wallace, The Psychology of the Internet, Cmabridge University Press, 1999

いろんなところで,いろんなふうに語られていたような,ネットの心理学の教科書的総覧。スリリングな話は出てこないが,綿密に分かりやすく,事例を豊富にあげながら説明されている。訳者もあとがきで述べるように本書は「インターネット上でみられる人々の振る舞いを,心理学とりわけ社会心理学の基本的,すなわち評価が一定程度定まった概念で解き明かそうとする」ものであるから,「その意味で,インターネットを題材とした(社会)心理学のテキスト」でもある(p323)。新しいインターネット世界もまたこれまでの社会を作ってきたのと同じ人間の所産なのだから,両者は地続きであるというわけだ。

わたしが特に興味を引かれたのは第9章「タイム・シンクとしてのインターネット」。原著は見ていないのだが,John Mueller の書評で確認したところによれば,「(時間泥棒)」と訳されている「タイム・シンク」は "Time Sink" で直訳すると「時間の流し口」だ。ネットに多大な時間を費やしてしまう,いわゆる「ネット中毒」については類書も読んだことがあるのだが,ここでは単に耽溺してしまうことだけでなく,他にもっと簡単な方法があるにもかかわらずネットでやることにこだわるという心理が指摘されている。ウォレス自身が航空券の予約システムにはまって時間をさんざん費やしたあげく,旅行代理店に電話したほうがずっと早かったと後悔したという例をあげている。こんなとき「インターネットはタイム・シンクになりうる。わたしたちの行動と性向が,インターネットをタイム・シンクにしている(p.215)」というのである。ヤバイ,オレモカモ。

これが「内的統制者」と「外的統制者」という概念で説明される。たとえば,良いことがあったとき,自分の努力の成果だと考えるのが前者,運が良かったと考えるのが後者である。つまり,「ローカス・オブ・コントロール(統制の所在)」が自分の内部にあるのか,外部にあるのか。

内的統制の強い人は,学校での成績が良く,仕事でも成功する。資産を貯え,シートベルトを着用し,避妊を実行する。ものごとを統制可能と考える人々は,自分が統制していると思えるように振る舞う。こうした人々は,環境を支配する能力に対して楽観的で肯定的な考え方をする。また,インターネットにはまりやすい傾向がある。インターネットは統制する自由をたくさんもたらすからである。 内的統制者は,とりわけ内的統制を可能にしてくれる技術革新を歓迎する。(p.218)

たとえばテレビのリモコン,ビデオデッキ,留守番電話,発信者番号通知サービス……。オレは資産は貯えていないが,こうした技術革新を歓迎してる。

が,こうした「統制感」と「エンパワメント感」は一種の幻想であり,「インターネットのタイム・シンクに陥る一因となる(p.220)」とウォレスは指摘する。それがなぜ幻想なのかはちゃんと説明されていないんだけど,統制感とエンパワメント感という概念はすんなり理解できるものだった。

ウォレスは,この統制感は,ネットのあちこちにあらわれるという。「インターネット利用者が,政治や商業,エンターテインメントなど自分からは慣れた世界に影響を及ぼしている感覚を強く感じているのもその一例である(p221)」。下のエントリで触れた著作権法改定問題でBlogのネットワークが一定の役割を果たしうるのかも…みたいな期待の図星を突かれたような感じだ。

内的統制の強い人が,以前は個人の力では成し遂げることが不可能だった領域で内的統制を行使するとき,その魅力は際立つ。しかし,この種の権力の行使はオンライン上で長時間すごすことにつながり,友人や家族とすごす時間は,減る可能性がある。(p.222)

たしかに減ってるなあ,ゴボゴボ………

コメント (2)

いりえ:

わたしは、インターネットがもたらす「エンパワメント感」って、悪いものじゃないと思うのですが、どうなんでしょうね?
これに期待できないと、「おもしろき こともなきよを おもしろく」(高杉晋作)できないような気がするのですが。

http://www.internetclub.ne.jp/MRIKAI/region/NO60/e_com/e_com.html
は、わたしが書いた文章ですが、この中で引用した、結城さんの日記
http://www.hyuki.com/diary/dia0401.html#i08
にも、オンラインとオフラインのバランスのとれた生活の話が出てきて、これを読むと、「ゴホゴホ」と咳き込みたくなるようなところがわたしにもあります。

もとえ:

統制感にせよ,エンパワメント感にせよ,悪いばっかりじゃないですよね。ウォレスももちろんバランスを欠く危険を指摘しているってことだと思います。

入江さんが引かれている「引かない三人」「バカ五人」っておかしいけど言い得て妙ですね(笑)
心理学的に言うならば,内的統制者の集まり?

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2004年06月02日 03:28に投稿されたエントリーのページです。

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