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『デジタル空間ハウス』

を読む。

2003/12/28のエントリでも触れた,自宅を「記憶する住宅」として「ITリフォーム」した記録。リフォームのノウハウ本のような顔をしているが全然そうではない。

美崎が実行するひとつひとつの方法は素朴で単純だ。天井裏や床下,つまり建築の「ふところ」にケーブルや機材を埋設する。それだけといえばそれだけなのだが,それをひたすら愚直に徹底してやっている。その徹底ぶりに,ほとんど(いい意味で)不気味といってもいい迫力が生まれている。

建築家もまた,神経症的な過剰さをもって建築の仕上げにこだわることがある。だが,そのようにして作られた建築に,まったく無造作に諸機器が設置されてしまうこともよくある。台無しだ。台無しにするユーザも悪いけれども,それは当然予想されることなのだから,その程度で台無しにされる建築も脆弱にすぎるのである。責めを負うべきは建築であろう。

さらに驚嘆すべきなのは,巻末にわずかに示される「記憶する住宅」のコンテンツ作成プロセスである。「かつて筆者が見たことのある紙情報をすべて,いっさいの判断を行わず,小学校の教科書からノート,試験の答案用紙,ラブレター,雑誌,チラシに至るまで,なにもかもデジタルスキャニングして取り入れて」いるとこともなげにいい,それが刊行時には41万枚になっており,さらに「筆者がこれまでに眼にした紙の総数は,およそ200万枚程度になる」ことがわかってきたなどと,言うのであった。

これほどの規模の画像データベースを死蔵するのでなく有効に管理することは,もちろん容易ではない。美崎は,従来のコンピュータの方式ではだめで,必要なのは「もっと日常的な,カレンダーとか手触りとか書棚とかを意識した構造」だという。この「カレンダーとか手触りとか書棚とか」という一節に見られるカテゴリの混乱が興味深い。ツルツルのディスプレイ画面をにらむのとはまったく異なるインタフェイスデザインが現れてきそうな感じがする。

こんなのはどうですか,と私から言えたらいいんだけれど。

美崎薫『デジタル空間ハウス—夢が現実になった!電脳住宅 』ソフトマジック,2003

コメント (5)

美崎薫:

本は、よい読み手によって活かされると思います。
とてもよい読み方をしていただいて感謝です。

おっしゃるように、カテゴリの混乱が、
わたしにも興味深いというか、
わたしは自分自身を、あまり整理のうまい人間とは思っていなくて、
混乱した、カオス的なところを持ち続けていたい、
ということを思っているのだ、ということを、
指摘されたような気がしました。

もとえ:

美崎さま,はじめまして。
著者直々にコメントいただき恐縮です。

「記憶する住宅」プロジェクトの続報,楽しみにしております。
もしかすると,待ちきれなくて押しかけるかもしれません。
そのときはどうぞよろしくお願いいたします。

美崎薫:

もとえさま、はじめまして。
「時空間ポエマー」をごいっしょされていた、
中西さまとは、先日お会いしました。
松川さんとは、PhotoWalkerをいっしょにやってました。
いろいろつながりがあるんだなぁと思ってます。

直近だと、3月4〜5日のインタラクション2004で、
発表を行います。
ぜひどこかの機会でお目にかかり、
あるいは拙宅をご覧いただいて、
いろいろ議論していったり、
逆に教えていただいたりしていけたらと思います。

いやでも、ほんとに、
・リフォームのノウハウ本ではない(わたしもそのつもりで書いている)
・愚直で単純で徹底的(そのとおりだと思います)
・責めを負うべきは建築家(とは内心思ってます。建築には素人なので遠慮していわなかったと思いますが…。)
・巻末にわずかに示されるコンテンツ
(本書は「記憶する住宅」のハードについて書いたもので、
続編として当然ながらソフト編がある、というか、
ないはずがない)
・重要なのはアンチコンピュータ(でもそれがなにかは手探り)
というのが、書きながら思っていたデジタル空間ハウスの裏テーマであり、
それをここまでずばずばとご指摘いただくと、
気持ちいいくらいです。

もとえ:

『未来型生活アイテム』も拝読いたしました。
こっちはあっさり系ですね。

美崎薫:

お読みいただきありがとうございました。
『未来型生活アイテム』の裏話は、
これ自体が、記憶する住宅の産物だ、ということです。
記憶する住宅内で、コンテンツを見ているうちに、
「これってあれじゃん」というリンクがたくさんでてきて、
それをつないでいったら、ひとつの本になった、
ということですね。

ま、自分自身のやっていることではないので、
思い入れのないぶん、あっさりしてます。はい。

わたしは読者ではないので、よく評価できないのですが、
『デジタル空間ハウス』は、重すぎる(思い入れがありすぎてバランスを欠いている)んじゃないかなぁ、
と思っていて、その逆にしようとしたのかもしれません。

もとえさまのように、思い入れがありすぎてバランスが崩れているところに、
興味をもっていただいているような場合には、
あっさりに見えると思います。

で、わたし自身も、たぶんそのバランスが崩れているところが、
美崎薫のおもしろいところなのだろうと思っているのではあります。

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2004年01月24日 20:12に投稿されたエントリーのページです。

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