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『オフィスはもっと楽しくなる』

著者が愛ちゃんと舞ちゃんだとか、かわいらしいイラストや装丁だってことに騙されてはいけない。

これはオフィス家具メーカーのオフィス研究所の現役研究者たちによる最先端の研究成果にもとづくオフィスデザイン方法論である。

こういう本には普通つかない、硬派な参考文献リストが巻末にびっしりついており、そのほとんどはこの研究所が様々な大学との共同研究を通じてまとめた学術論文である。経験と直観による憶測で書かれた章はひとつもない。

私の研究室との共同研究の成果も紹介されているので、私はインサイダーのひとりではあるのだが、これまであまり聞かされていなかった他の大学との共同研究についても多くの言及があり、このオフィス研究所が相当に多面的な実証研究を行いながら、科学的根拠にもとづいたオフィスデザインを進めようとしていることが理解されるだろう。

5つの章にわりあてられているキーワード、すなわち
Diversity
Communication
Creativity
Hospitality
Learning
は、どれも現在の企業・組織が渇望しているものだろう。

残念ながら、はたらく環境のデザインが、これらを直接提供してくれるわけではない。いずれも人の行為の蓄積から生みだされるものであるよりほかないからだ。

環境と行為との関係は必ずしも強いものではなく、むしろごく弱い親和性しかもたないとされるけれど、それでも環境はそこでの人々の行為に一定のインパクトをあたえ、方向づけを行ってしまうものである。

人が自律的に行動することを是とする社会において、一撃で人々の行為の様態を一挙に変えてしまう「魔法」はありえない。

本書であげられている様々な方法を投入して環境を整え、オフィスの「体質」を変えていくことからはじめることは、遠まわりに見えるけれども王道なのだろう。

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2015年09月04日 20:08に投稿されたエントリーのページです。

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