« ことえりがあんまり遅いので | メイン | 川口のメディアセブンは「図書館Pro」になれるか? »

『センセイの書斎』

を読む。


内澤 旬子『センセイの書斎―イラストルポ「本」のある仕事場』幻戯書房,2006

様々な分野の物書きの仕事場を訪ねて,その書架のありようをイラストとエッセイで紹介するもの。人の本棚をのぞくのは相手が誰であっても窃視的欲望を満たすものであるから,そういう意味では楽しい本だ。

私自身の研究室の本がまるで片付かないので,何かヒントがあるかと思って手に取ったのだけれども,それぞれの人にその思考パターンや仕事の進め方と直結したそれぞれの方法があるのであって,一発で整理がつく万能の方法は簡単には抽出できないのだろうということだけがわかる。巻末に整理法を整理した分析があるが,「自分なりの法則」ってまとまったりしてて,これが少々淡白すぎて実用的な関心には応えられない感じ。たとえ難しくとも,なにほどかのパターンを抽出するのだという意志が貫徹されないと,好事家好みに終わるんじゃあないかな。

メインのイラストは天井を抜いた部屋を俯瞰したパースになっている。書架や机,その上の小物,傘や鞄といった持ち物まで,克明に描かれている。「測量」して描くそうだから,それぞれの寸法関係も嘘はないのであろう。それにしては津野海太郎の部屋の極端に幅の狭いドアはなんなのだろうかとか,おなじ部屋の植草甚一が使っていたというコーナー・デスクのその裏におかれているイスのまわりの狭苦しさはさぞ居心地よかろうとか,金田一春彦の部屋の「テーマ別引き出し」が9段も10段も積まれていて上の方なんか引き出しても中が見えないじゃんとか,曾根博義の複雑にクランクが連続する迷路のような書庫の奥に罠のようにおかれた掘りごたつは唐突だろとかとか,次々と突っ込みどころ満載で実に見飽きないものである。こういう感想もまた,空間とモノの配列に関する好事家的窃視的な欲望の表れに他ならないのだが。

このイラストの余白にびっしりと書架に並ぶ本のタイトルが書かれており,見る人が見れば,ややそれとこれが並びますかあとかなんとか,果てしなく関係性を見出して溺れていくことができるのに違いない。

ところで,私は大学の生協で平積みのを何気なく買ったのだが,アマゾンでは新刊が切れていて古書にプレミアがついている。何かあったのかな。出版差し止め系の話題にはちょっと敏感になっているところなので気になるねえ。

About

2006年06月25日 12:58に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「ことえりがあんまり遅いので」です。

次の投稿は「川口のメディアセブンは「図書館Pro」になれるか?」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。