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『行動分析学入門』

を読む。
杉山 尚子,『行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由』集英社新書,No. 0307E,2005

行動分析学 behavior analysis の入門書。行動分析学は心理学のひとつで,「行動の原因を解明し行動の法則を発見する基礎科学」と「現代社会における人々の行動の問題を基礎科学で発見された法則に基づいて解決していく応用科学」という,基礎と臨床の両義性をもった方法論である。これらの探求は実験を通じて行われるので,実験的行動分析 the experimental analysis of behavior と呼ばれる。

いつも炬燵に左手を入れたまま片手で食事をする人がいるとする。普通,我々は「行儀が悪い」からだと考える。しかし,「行儀が悪い」のは「片手での食事はいけない」を言い換えているにすぎず,原因を説明していることにはならない,と行動分析学では考える。

実験的行動分析によって,彼の左側にあるドアから冷気が入って左手が冷たいということがわかった。試しにストーブを近くに置いてみると両手で食べる時間が増え,再びストーブをどけると片手で食べ,またストーブを置くと両手で食べたのである。そこで,彼の左手を炬燵に入れる行動は,左手が暖かいという「好子(こうし)」の「出現」を「強化」するための行動である,と説明する。このように行動とそれがもたらす効果との関係——行動随伴性 behavioral contigency——によって行動を捉えようとするのが行動分析学だ。

このように行動分析学では,行動の説明を環境の要因に求める。逆に,神経生理学的な説明(ドーパミンの多寡)や心理的な説明(電車の中で化粧をするのは羞恥心がないからだ)あるいは概念的説明(戦争を繰り返すのは〈闘争本能〉のためだ)は受け入れない。行動分析学には,行動の問題を具体的に改善しようする実践的な側面もあるから,操作可能な変数に行動の原因を探す必要があるのである。

このように,行動の原因を環境要因に求め,逆に環境に介入することで行動に影響を与えようとする行動分析学は,環境の設計方法論にほかならない。行動分析学の極めて単純な(もちろんよい意味で)モデルによる行動の説明は,デザインに携わる人々に多くの示唆を与えるだろう。

ハトを実験動物に使うのは目がいいからだ,とか,言語 language ではなく言語活動 verbal behavior と呼ぶのはなぜか,とか,単一被験体法とか,節約の原理とか,実に興味深い話題がめじろおしであった。人の行為に影響を与えようと考えている人,つまりすべてのデザイナーには知っておいていいことばかり。

同じ著者らによるより広範な教科書,『行動分析学入門』も読んでみるつもり。

コメント (1)

Tetsuya Yamada:

初期の建築計画はまさにこの「行動分析学」的な方法論によっていました。そのためユーザーに直接インタビューするというような対象の主観によらない、行動観察および分析の方法がより客観的であると、好んで使われいたそうです。それを破る一つの契機となったのが、POE、とくにユーザー満足度評価だと思われます。SD法による環境評価や、讃井さんらの評価グリッド法は、デザインする側からは批判的に見られていたようですが、太田らの設計方法論はそれらを繋ぐ意味で、乾先生とかにも注目されていましたが、ペナらのプロブレムシーキングによるインタビュー手法や、POEの手法は、ユーザーの主観と、プログラミングプロセスにおける観察だけによらない方法を結びつけたと言えるかもしれません。

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2006年02月16日 08:39に投稿されたエントリーのページです。

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