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『マルホランド・ドライブ』

を見てしまった。そんなに暇じゃないんだが,買い置きを,ついつい。

デビッド・リンチですから,受けつけない人にはダメでしょう。好きな人には最高。すごいテンション。ヤケッパチに見えた「ロストハイウェイ」よりもはるかにいい。最後には筋もだいたいちゃんとつながるし(笑)小物の数々はいかにもの名人芸。進歩主義反対。リンチには,ずっとこういうのばっかりいっぱい撮ってほしい。

ナオミ・ワッツが素晴らしい。前半の田舎娘ぶりは日本人好みの古典的なかわいらしさでいっぱいだし,後半の惨めさと苦悩でひしゃげた顔も迫力がある。グチャグチャの顔で泣きながらマスターベーションするシーンは凄惨で忘れがたい。

「マルホランド・ドライブ」というのは,山の上のハリウッドの看板文字に向かう曲がりくねった山道のこと。実際事故も多い。まっすぐな「サンセット大通り」とは対比的な道路。ここで,ビリー・ワイルダーとデビッド・リンチがセットになって,ハリウッド内幕ものそろい踏みとなるのであった。どっちも怖い映画ですね。

ところで,ずっと昔,若桑みどりの美術史の講義を受けたことがある。「フィグーラ・セルペンティナータ(蛇状曲線体)」と呼ばれる長くクネクネと引き延ばされた肢体をその特徴とするマニエリスムの講義。そのグネグネについて語る枕で,若桑がマニエリズムの絵画を見ると,いつもポール・マッカートニーのロング・アンド・ワインディング・ロード♪が頭に鳴り響くんですぅなどと言ったのが,妙に心に残ってしまい,それ以来,私の脳裏でもマニエリスムといえば
ロングアンドワインディングロード♪なのだが,マルホランド・ドライブもまた文字通りのロングアンドワインディングロードであるので,『マルホランド・ドライブ』とは,フィギューラ・セルペンティナータの姿へとマニエリスム化されたサンセット大通りであったかと了解されたのであります。

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2004年12月26日 11:54に投稿されたエントリーのページです。

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