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「ぼくの伯父さん」

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ぼくの伯父さん

オシャレ系フレンチコメディとして紹介されることが多いジャック・タチ。モダニズム建築にいかれた連中のスノビズムを嗤う内容なのだが,あらためて見るとかなり特殊な映画だと思われた。

全編を通じて顔のアップが,たぶん一カットもない。全員の全身が画面におさまりきる,俳優の立ち位置指示スケッチのような,あるいは桟敷席に固定のビデオカメラを1台だけ据えて取り続けた演劇記録映像のような,なーんだか不思議な構図が延々と続く。

キートンのコメディも顔より全身だが,キートンは「走る」。対して言えば,タチは「よろける」ということができようか。タチ自身がよろけるというよりは,子どものいたずらでよろける大人たちを嗤うのだ。

タチは自転車が好きなのだろう。殺風景なモダーンインテリア住宅の子ども部屋のシーンで,それが子供部屋と知らせる唯一のアイテムが赤い子供用自転車なのであった。特典映像の短編「郵便配達の学校」でもまた自転車が重要なアイテムである。オープニングシーンでは,郵便局員がローラー台でペダルを踏んでたり,大急ぎで走る郵便局員がロードレースのプロトンを抜き去ったりする。かといって,キートンのようにはタチは走らない。坂を勝手にドンドン下っていく無人の自転車を,近道の崖地をよろけまろびつおいかける。

ところで,庭にたつ噴水が魚の形をしているのだが,これがフランク・O.ゲーリーを想起させるとともに,『金色のガッシュベル』の「ぶり」の姿によく似ているなあと思いながら見ていた。酔って帰って奥様自慢のモダーンなフォルムのソファを横倒しにして眠っているタチの姿がアイリーン・グレイみたいだな,あの有名な写真では腕を垂らしていたっけ?とか,そういうどうでもいいようなことが次々と想起されてくるような散漫力に満ちた映画なのであった。

血沸き肉踊る映画では断じてないし,気の利いたエスプリ満点のお洒落な映画とも思われない。どっちかといえば,ダラダラした寝ぼけた映画だとさえ思う。でも,それがなんとも好ましい。つまらないパーティーでは,同じように退屈している子どもたちと遊ぶと楽しいんだよな,とか,そういうことを思いつつ見た。私もユロ伯父さんのようになりたいなと思う。

コメント (1)

もとなが:

ジャック・タチがオシャレ扱いされるのは、おフランスだし仕方ないとは思いつつも、勘弁して欲しい気持でいっぱいです。気が利いてるんじゃなくて気の抜け具合がいいんですよ、とか言っても、それが「オシャレ」ってことになるんだろうなぁ。

特に細かいところがたまらないです。キッタナイ服でこまめに手を拭く揚げパン屋とか。テーマのようなものがないわけではないけれど、そんなものよりもっぱら細かいシーンの寄せ集めだけで作られているのがなんともよろしいのです。

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2004年09月06日 10:50に投稿されたエントリーのページです。

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