本書もまた、モノとしての丹下建築が、どのように作られているのかを正確に克明にネチネチと記述していく。どの建物も有名なものでありその多くは実際に体験したこともある空間だけれども、ここに書かれているような形で作られているのだとは知らなかったから、読み進めるうちに、自分の知らなかった建築の有様が匂い立つようにして眼前に現れてくるように感じられ、その難儀な書き振りに付き合っていくことを通じて、丹下が、時代の最高のエンジニアとともに、攻め切ったギリギリの方法で、建築を作り続けてきたことがよくわかるのである。
この、バルザックのような、ネチネチと濃密な細部の記述を楽しんで読み進めていけるかどうかは、建築を業とできるかどうかの試金石にもなりうるのではなかろうか。そして、嬉々としてこのように書き進める筆者の資質にもまた喜ばしく走る勢いを感じずにはおられない。
人脈や時代精神のことではなく、極めて即物的に丹下建築が現れてくる。読みたかったのはこういう丹下建築論だ。
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