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2012年08月 アーカイブ

2012年08月27日

「肌理と気配」

2012年8月25日から26日にかけて、SSDのスタッフとともに青森を訪れ、国際芸術センター青森で開催されている「肌理と気配」展を見、あわせてワークショップ「移動するのは人か建築か」に参加した。

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これは、今年(2012年)はじめて、せんだいスクール・オブ・デザインで実施したクリエイタインレジデンスの第一回の招待作家であるassistant(松原慈+有山宙)が,仙台に続いて青森で行なった滞在制作にともなうものである。仙台で作られた「ゴーストハウス」と、青森でつくられた作品は、会期後、奈良東大寺に近い「33年目の家」に搬入され、その一部となる。

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25日の夜には、水盤の中に演台と客席の一部が設けられる形で、松原慈さんによるレクチャが行われた。アフリカの諸都市の印象を語るもの。

"My Imaginary Lagos"と題された小さな本の内容も併せて紹介された。それは、未だ訪れたことのない都市ラゴスのたくさんの写真と、自分が撮り溜めていた見知った場所のたくさんの写真を、見比べて、よく似てみえる写真どうしをペアにしてみることで、構図であったり、モチーフであったり、似ているということにはいくつかの異なる様相があるのだが、幻影としてのラゴスを現出させようというもの。スクリーンに映し出された写真を、松原さん自身が、ラゴスなのか品川なのか見分けがつかなくなっていたりするのも面白い。(この"My Imaginary Lagos"は本江研かSSDライブラリで所蔵しています。)

ちょうど次のWAW(国際建築ワークショップ)のために、都市の、あるいは都市景観のグローバル化について考えはじめていたところであったので、この問題設定は実に興味深く聞いた。

ただ、わたしは水盤の中にセットされた椅子に座っていたのだが、日が暮れても熱気の冷めぬ暑い夜だったにも関わらず、足先をずっと水に浸けていたので、ちょうど逆足湯のように血液がどんどん冷えていき、肌寒くなった。

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翌26日のワークショップは、まず会場内のassistant自身の作品の中におかれた場で、松原さんによる作品解題。会場には来られなかった有山さんも電話の音声だけで参加。弓形の空間に響く、低い電話の声。

ついで、図書室に移動し、参加者に課題が課せられる。
あらためてひとりで展示を見て、それから会場とその周囲を散策し、そこにおきている何か「現象」を見つけ出すこと。——もっとも、「現象」といってしまえば簡単だろうに、松原さんはその言葉を一度しか使わなかった。ずっとそう言わないようにしていたのかもしれない。—— 見つけた現象は、それとわかるようにマークしておく。マスキングテープで囲んだり、チョークで記しづけたり。これを15分ぐらいでやる。多くを見つける必要はない。ひとつでいい。

なるべくバラバラになって見られるように、グループを分割して、順に外へ出していく。数名ずつ、図書室を出て行く。言葉を交わさず、ひとりで出来事に感覚を澄ませていく。何か見つけたらマークして、図書室に戻る。

図書室では原稿用紙一枚と鉛筆が渡され、作文を求められる。
1. 今見つけたことを記述する。なるべく克明に、しかし自分なりの表現で。
2. そのことで想起したことを記述する。

しばらくの時間、皆無言で作文をする。

皆で展示会場へ。最初のレクチャをおこなった場所に戻り、着席。
作文をシャッフルして配りながら、
参加者がひとりずつ、自分のものではない作文を朗読する。

読み上げられる作文。
見出された「現象」がひとつとして重ならないこと、
さらに個々に想起されることの豊かさと複雑さ、
まさか読み上げられるとは思ってなかった……と少し恥ずかしそうな書き手の表情、
弓形の空間に響く、朗読の声。

ひととおり読み終えて解散。

展示室や会場のまわりを歩くと、あちこちにマークの跡が見つかる。
それぞれが、さっき聞いたものと関係りそうだと思うけれども、すでにその現象は失われていて、追体験することはできない。

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蛇足だけれど、私の書いた作文は以下のとおり。

道に、中くらいのミミズがまるくなって生乾きで死んでいる。ミミズの胴の太さに満たぬほどの小さな蟻が、ミミズに群がっている。そこから五つの方向に蟻たちの行列の筋が伸びていて、蟻は次々と入れ替わるが、その群れの広がりは掌ほどの円形のうちに安定している。ミミズと蟻たちは、弧をなして伸びる建築の端部に、他の壁から離れて自立する壁の通り芯線上にあって、その壁の両側の空地の広がりに晒されることはない。

私たちはいつも見えない線に身を寄せている。歩道の目地のピッチに合わせて歩いたり、横断歩道の白いところだけを飛び石のように歩いたりしてしまう。私たちは次々と入れ替わるけれども、その配置は次々と少しずつ薄らぐとはいえ、変わらずにある。


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