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2007年02月 アーカイブ

2007年02月01日

「オフィスからワークプレイスへ」

と題する小文を,建築学会の建築雑誌に寄稿しました。
連載「ゆく言葉/くる言葉」の第14回にあたります。

連載の企画にそっているので,「オフィス」が「ゆく言葉」で「ワークプレイス」が「くる言葉」になっていますが,もちろん,これらは置き換わる言葉というのではありません。

一般的に,人々が新しい言葉を使うようになるは,その事柄が意味の塊として世界から弁別されるようになるからです。

産業革命期に「ミル」が大規模で複雑な「ファクトリー」に変化するなかで,同時に強化された事務管理部門が独立して「オフィス」と呼ばれる空間が生まれました。

そして今日,「オフィス」という多面的な活動から,とりわけその場所の問題として「ワークプレイス」が切り分けられてきたのです。

ワークプレイスという言葉は,オフィスが単なる機能的な「空間」にとどまらず,そこに働く人々のための,意味に満ちた「場所」であることをあらためて意識させるものだといえそうです。

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本江正茂「オフィスからワークプレイスへ」『建築雑誌』2007年2月号,p.30,日本建築学会, 2007


2007年02月03日

『〈学級〉の歴史学』

を読む。




柳 治男『「学級」の歴史学―自明視された空間を疑う』講談社,2005


これは実におもしろかった。
ビルディングタイプとして学校を語るときには必須の文献となるだろう。

なぜ学校をめぐる議論に,「学級とは何か」という問題を提起するのか。それは,中世までの学校に「学級」が存在しないからである。多くの学校史研究が明らかにしていることは,中世の学校は多くの場合一つの部屋でしかなく,しかもそれは「教室(class room)」ではなく,「教場(school room)」と呼ばれた。この教場の中にいる子どもは年齢がまちまちで,同年齢の子どもの集まりなどは見られなかった。われわれがカリキュラムといっている,教授活動の全体的な計画なども,まったく存在しなかったのである(p.2)。
 

教育というサービスを大量に均質に提供するためのシステムとして,19世紀イギリスで「学級」をもった学校が成立した。教授法の水平および垂直分業を徹底的に行い,「事前制御の中に人を組み込み,感情を操って自己抑制を求め,自動的に競争を促す(p.211)」ことで効率的運用をはかる学級制は,トーマス・クックのパックツアーやフォード,マクドナルドにはるかに先駆けるチェーン・システムそのものだった。

本書は,この「学級」というシステムの歴史を,教育学の言葉でなく,社会学や経営学の概念で説明しようとする。

学校は常に改善されていかねばならない場である。しかしそのような議論を,高尚な理念やスローガン化された「決まり文句」から出発してはならない。常識的に,スーパーマーケットやファースト・フード店を見るのと同じ冷静な態度で始めないと,大混乱に陥る他はない(p.216)。

学級制学校という「ハードウェア」の限界を冷静に理解することなしでなされる理想論やタテマエにもとづく「教育言説」は有効ではありえないからだ。

ところで,「学校」システムのコアとして「学級」に注目するという枠組みは,私には実に興味深いものだ。まずは,コミュニケーションのための場のデザインに関わる者として。さらには,「学級」とはまた異なる「研究室」を運営する現場の教師として。

2007年02月09日

Chakuwiki

メインページ - Chakuwiki

集団知による場所性の再構築プロジェクト(笑)

2007年02月10日

ハンス・ウェグナー逝去

Hans Wegner Dies at 92; Danish Furniture Designer - New York Times

Yチェアのデザイナーとして知られるハンス・ウェグナーが1月26日になくなった。92歳。

日常的に気持ちよく使えて,しかしいつまでも見飽きることのない美しい椅子をいくつも作った。

Yチェアの後ろ脚はとてもグラマラスで,三次元的に複雑な形状にうねっているように見えるけれども,あちこちから眺めているとスッとまっすぐに見える角度があるのに気付く。つまり,厚板から切り出して角を丸めれば取り出せる,無駄の出ない形をしているのだ。

美しくて機能的で合理的。それでいて地域的。
20世紀デザインのコンセプトを体現するマスターピースのひとつだ。

これからも毎日使います。

どうぞ安らかに


宮城野高校土曜ゼミナール

に行ってきた。

学外の講師を招いて,年に二回行われている宮城野高校の「土曜ゼミナール」。

今日は28のゼミが開講されていた。心理学,お菓子作り,美術,映像,三味線,イナバウアー入門,情報犯罪の現状と対策……バラエティーに富んだメニューから,生徒たちはひとつ選んで参加するという仕組み。

私のゼミ「建築は何と関係しているか?」には12名の参加があった。男女半々ぐらい。

机を動かして長テーブルのフォーメーションにして,お願いしていたお茶とチョコレートを配ってから,次のような段取りですすめる。

各自「建築」に関係すると思われるキーワードを三つあげる

自己紹介する
  どんなキーワードをあげたか
  建築の何に興味があるのか
  今日のワークショップに何を期待しているか

「グッゲンハイム美術館ビルバオ」について知る
  ビデオ,本など
  建築という概念の広がりを意識しつつ

ブレインストーミング:「建築」は何と関係しているだろうか?
  発見,意識の変化に注意して
  なるべくたくさんキーワードを出す
  質より量,批判禁止,かぶってもいい,のっけてく

「建築」という概念の広がりについて討議する
  キーワードのマッピング
  どんな切り口がありうるか?
  新しい目で「建築」を見る

質疑。建築についてなんでも。

以上で二時間ちょい。

イマドキの高校生ってのはどんな感じか,正直不安もあったが,皆なかなかに積極的で,討議もまずはポジティブに進められたかと思う。楽しんでくれたのであればいいのですが。


2007年02月13日

『建築家の講義—ルイス・カーン』

を読む。


ルイス カーン『建築家の講義 ルイス・カーン』

建築家ルイス・カーンが,1968年にライス大学建築学科で行った講義と,続く学生との討議の記録。当時のカーンは67歳。原題は"Conversations with Students"だ。訳者あとがきにいわく「ジャーナリズムや批評家たち等の一般受けをねらって語っているのでは決してなく,まさに目の前にいる学生たちに向かって語りかけ,問い掛け,答えを探し求めているのである。問いそして答え,あるいは問われ答えられる対話こそがカーンの思考の基本であった」。

一読するだけでは意味をつかみづらいかもしれない。
すでによくわかっていることを誰かに「わかりやすく」説明しようとする言葉ではないからである。

カーンは話しながら考えている。

誰かが何かを話しながら考えている,そのかたわらで耳を澄ませているような気持ちで読むと,意味がモヤモヤと形を成して立ち上がろうとする,まさにその現場に立ち会っているような臨場感を感じることできるだろう。

訳者あとがきにならって,私も原文を声を出して読んでみたいと思って,原著を注文した。
とても楽しみ。




Princeton Architectural Press, Louis Kahn, Princeton Arch『Louis I. Kahn: Conversations With Students (Architecture at Rice)』

ジョン ピーター『近代建築の証言』の付録のCDで,カーンの声を聞くことができる。録音は1961年だから『講義』の7年前でちょうど60歳。文章で読むのと印象が近い。ゆっくりとした考えながら話しかたでありながら,発した言葉には自信が満ちている。


magabonで雑誌のちょい読み

【magabon】 雑誌のちょい読みOK!! 24時間、365日、最新マガジン情報をあなたに。

雑誌の目次他数ページをオンラインで見られて,そのままAmazonやFujisanで買える。
本屋では手に取りにくい雑誌(なにってわけでもないが)も見られる。
PAPER SKYもある。

建築系の雑誌もこういう空間にもっと出ていけばいいのになあ。
ほとんど定期購読なのか?

2007年02月14日

みんなで投票チャンネル

Wiiでみんなで投票チャンネルが突然はじまる。

さっそくやってみた。
「日本のスイッチ」の簡単版。
お茶の間で家族で遊ぶにはおもしろい。

任天堂からのメールでお知らせが届く告知とか,Mii(アバター)を動かして投票するしかけとか,衣装の色変化や考える仕草の作り込みとか,なかなか面白い出来。

今日はじまったばかりのサービスなので,集計結果を見られるのはちょっと先になる。

「世の中とのギャップ」がどんなもんか,楽しみだ。

第一問 うどんとそば,どっちが好き?

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2007年02月15日

宮城大学デザイン情報学科空間デザインコースの岡村先生,田村先生の退官記念パーティー

が下記のとおり行われます。
卒業生もぜひご参加くださいとのことですので,ここを見ていたら伝えあってください。

続きを読む "宮城大学デザイン情報学科空間デザインコースの岡村先生,田村先生の退官記念パーティー" »

2007年02月18日

スプーンで蕎麦を食う

yoot.com: はしとそばとヌードルとスプーン

すぐれたインタフェイス論。読んでおくべし。

外部講評会

OBで在仙の建築家5名をむかえ,卒業設計と修士設計の選抜作品を対象とした外部講評会が行われた。

卒業設計の青葉賞には石鍋羅馬さんの「映画の巣」,修士の最優秀には茂木晃さんの「高層現代美術館」が選定された。いずれも丁寧につくりこまれた秀作で,完成度も高い。他の作品も総じて充実しており,レベルは高かったと思う。


それにしても,あの発表の下手さはなんなのだろうか。

ひとことでいうと,弁解っぽいのである。

発表の持ち時間は限られている。その中に,明らかに核心から離れた,ネガティブチェックをパスするためにしかならないような,細部を延々と説明してしまう。

質問に答えるときにも,まず弁解から入る。長い弁解をしているうちに,質問への答えが失われてしまう。

発表にせよ質疑にせよ,弁解めいた話が延々と続くので,提案の核心がまったく見えてこない。

案をまとめるにあたって,想像しうるかぎり網羅的に弱点をチェックしておかなければならないことは当然だ。しかし,発表の時には,そういう細部は触れる必要はまったくない。大事なことをまず云い,それを理解するための文脈の説明をする。順番はこれ以外ではありえない。わかってもらえていないようなら,さらに大きな文脈の説明が必要になるかもしれない。

質問に答えるのに,文脈の説明からはじめてしまい,その説明が下手なために会場が???となったのを見て取って,さらに周辺の文脈を説明しはじめてしまう悪循環に嵌まり,とうとう核心には到達することができないという場面を何度も見た。

核心が何か,自分でもわかっていない。
核心などそもそもないのを糊塗している。
などの可能性もあるのだろうが。

もっとも,「核心」などというものは,あらかじめあるわけではなくて,表現されるときにはじめて出現するようなものであるから,それがいつまでも姿を現そうともしないことに,私はいらだっているということなのかもしれない。

本という新システム

巻物が本という新システムになった時代の混乱を描くドキュメンタリー(笑)

via "Hello, tech support? My book isn't working" - Engadget

もとの映像が削除されていたので、別のリンクを貼りなおす。(2009.2.3)

2007年02月20日

びっくりハウスみたいのに混じって

ゲーリーやキクタケが紹介されているのだった。

思わず目を疑うような建物の写真いろいろ - GIGAZINE

2007年02月28日

Mixed Tape 16

mixed tape 16 が出てた。
Second Lifeへの誘いが目立つが,自動車会社がこれにコミットするメリットはなんだろう?

BLOOMFRAME

押し開くとバルコニーになる窓。
200702281335

集合すると,いかにもオランダ現代建築らしい表情になりますな。
Bloomframe

オランダの建築事務所Hofman Dujardinの作品。Design/Productのところから。
ユトレヒトの建材見本市
?に出展されているようだ。

まあ,ありがちなアイデアだといえばそうだが,おもしろいと思ったのは,バルコニーが,固定の空間の実体ではなくて,窓の開け具合で現出する現象としてセットされていること。

日本のマンションのバルコニーは,多くが掃き出しの引き違い窓なので,もともと開口率は半分しかない。しかもバルコニーに出ても,ガラス戸を閉めることができてしまう。いきおい,洗濯物だとか,空調室外機だとか,季節外れのスキー板だとか,植木だとか,濡れてもかまわない,室内には置きにくいものの置き場所になってしまう。

こいつは物置にはまったくならない。窓を開けて,そのまま外気に吹き放たれた空間へ身を乗り出すという一連の行為がそのまま形になっている。しかも,開いた時には,室内外をしきるガラスがなくなる。

しまった状態では高窓になってしまって眺めが悪いように思うが,逆にだからこそ開いた状態とのギャップが大きくて面白いのではないか。むしろ透明ガラス部分は不透明の板でいいのではないかと思う。

バルコニーという空間に畳み込まれているたくさんの機能のうち,外気に身を乗り出せるようにするという機能だけに特化することで,窓としての性格がクリアになっている。フレキシブルにすることで,モノにこもる重層的な意味がこぼれ落ちて,すっと単純化してしまう例だともいえる。

私は持っていないけれど,オープンカーの屋根を開ける感じと似ているのではないかな。
ディテールも共通する考え方でいけそうだし。

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